杜都法律事務所: 2008年6月アーカイブ

 当事務所の講演会で、来年導入される裁判員制度に関するパネルディスカッションを予定しております。ある集まりで、その話を一般の方としておりましたら、来年から導入される刑事訴訟における裁判員制度よりも、国民にとっては、国家賠償請求訴訟についてこそ裁判員制度を導入すべきではないかとの意見が出ました。意見というよりも、興奮して力説されました。行政から被害を蒙ったことのある人、行政の対応に不満を憶えたことのある人には、同感される国民が多くあるだろうと思います。ところで、今回の裁判員制度の導入は、思い起こせば、司法制度改革審議会が平成13612日に発表した意見書に遡ることができます。司法制度改革の柱として3つ掲げられていました。

 

① 国民の期待に応える司法制度の構築(制度的基盤の整備)・・・国民にとって、より利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法とするため、国民の司法へのアクセスを拡充するとともに、より公正で、適正かつ迅速な審理を行い、実効的な事件の解決を可能とする。

② 司法制度を支える法曹の在り方(人的基盤の拡充)・・・高度の専門的な法的知識を有することはもとより、幅広い教養と豊かな人間性を基礎に十分な職業倫理を身に付け、社会の様々な分野において厚い層をなして活躍する法曹を獲得する。

③ 国民的基盤の確立(国民の司法参加)・・・国民は、一定の訴訟手続きへの参加を始め各種の関与を通じて司法への理解を深め、これを支える。

 

 以上の①の中で、「刑事司法については、新たな時代・社会の状況の中で、国民の信頼を得ながら、その使命(適正手続きの保障の下、事案の真相を明らかにし、適正かつ迅速な刑事罰の実現を図ること)をいっそう適切に果たしうるような制度の改革が必要である。」「まず、裁判内容に国民の健全な社会常識を一層反映させるため、一定の重大事件につき、一般の国民が裁判官と共に裁判内容の決定に参加する制度を新たに導入する。」、③の中で、「刑事訴訟手続きにおいて、広く一般の国民が、裁判官とともに責任を分担しつつ協働し、裁判内容の決定に主体的、実質的に関与することができる新たな制度を導入すべきである。」として、裁判員制度の骨格を示したのである。

 意見書を長々と引用したが、裁判員制度導入の趣旨が明確に出ているからである。この意見書は、多岐に亘り、民事事件、行政事件の各種改革にも触れているが、国民から見て、一番大きな変革は裁判員制度の導入であろう。具体的な制度設計の中で、いろんな異見がなされ、現在でも反対意見がある。ただし、この意見書の最も大きな積極面は、「裁判員制度」を導入して、日弁連や国民が長年に亘って求め続けてきた国民の司法参加に道を開いたことにあるとまで、語る者もおり、また、日弁連では、裁判員制度の広報の中で、「市民の司法参加は、司法に健全な社会常識を反映させ、民主主義をより実質化するものであり、これによって、司法に対する理解が深まり、信頼が深まることが期待されています。私たち市民の自由や権利に深くかかわる刑事裁判に市民が参加することには、とりわけ大きな意味があります。」と、大いに評価している。法曹関係者の裁判員制度導入にかける当初の熱意・評価と、国民の認識には、非常に大きなギャップがあると言わざるを得ないが、評価されるべき面を実現できるようわれわれ法曹関係者は、国民の理解を得るよう努力しなければならない。

 国家賠償請求事件も、事案によっては、国民・市民と国家権力との対決という場面も考えられるが、民事事件と刑事事件の根本的な違いが、刑事事件における裁判員制度の導入とは異なる多くの問題を含んでいるとだけ、現時点では答えるしかない。

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